「頭悪い・退屈な・痛い英語」を話さないための7つのテクニック

なぜここで紹介するテクニックが有効なのかの解説


いきなり具体的なテクニックを解説しても、なぜそれらのテクニックが有効なのかが理解不明になってしまいますので、まず最初に、それらのテクニックの下敷きになっている基本コンセプトについて説明しておきます。


たとえば、「How are you doing?」と訊かれるたび、毎回、壊れたレコードのように「Fine, thanks.」と同じ答えをするのは、退屈でつまらなくて頭悪そうな英語表現に聞こえます。
「fine」という答えが(1)ありふれた答えである上に、(2)毎回そればかりでは、二重に陳腐なのです。


しかし、だからと言ってネイティブ並に多彩な英語表現を駆使すれば問題が解決されるかというと、
話はそんなに単純ではありません。以下のような問題があります。

(1)日本人の多くは、そもそも多彩なボキャブラリーをマスターするだけの学習時間(と根性)が確保できない。
(2)多彩な英語表現を使いまくると、中国、インド、イタリア、フランスなどの、英語を母国語としない人たちにに通じないケースが多くなる。
(3)たいして英語力のない人が、無理して多彩な英語表現を使っているのは、むしろ痛い。
(4)多彩な英語表現を駆使しながら、陳腐で退屈な英語を話すネイティブも珍しくない。


このうち、とくに重要なのは(4)です。
結局、陳腐で退屈で頭悪そうな英語表現というのは、「単純に語彙の貧弱さがもたらすものではない」ということです。


それでは、陳腐で退屈で頭悪そうな英語表現の原因とは何なのでしょうか?
それは、その表現に新鮮さがない、ということです。
新鮮さというのは、驚きです。予想もしていなかったような表現で言われると、
おもわずニヤリとしてしまうような、おもしろみが生まれるのです。


そして、貧弱な語彙の人が、新鮮な英語表現を使うための、極めて効果的な戦略があります。
それは、臨機応変に、
「存在しない英語表現」をでっち上げながら話す
という戦略です。
「文法的に間違っているけど、意図が的確に通じてしまう」
という英語表現をどんどん使います。
公式スピーチなどのフォーマルな場面を除き、普段の仕事、生活、友人との交流など、多くの場合、
重要なのは、正しい英語を話すことではなく、
意図を的確に伝えること
なのです。
だから、「正しい英語」でないからダメだということにはなりません。


ただし、単に間違いだらけの英語は聞きにくく、意味も曖昧(ambiguous)で、
何を言っているのだかよく分からず、
聞き手を退屈させてしまいます。


新鮮な英語表現とは、単に素で間違えてしまった英語表現ではなく、
「意図的に間違えた英語表現」
なのです。


むしろ、「意図的に間違えた英語表現」を際だたせるため、
普段から、時制、複数形と単数形、定冠詞と不定冠詞、三単現などの細部に神経を行き渡らせ、
精密に使い分けながら、徹底的に正確な英語を話すように心がけることが重要です。


このテクニックは、デザインや格闘技でも定番です。
デザインの基本セオリーに徹底して忠実でありながら、一部意図的にデザインのセオリーから逸脱した表現を混ぜて新鮮なデザインを作り出すのです。
格闘技の基本形に徹底して忠実でありながら、技の中に、セオリーを無視した型破りな攻撃を混ぜることで、
相手の予想を超えた、不意打ち的な攻撃を作り出すのです。


そして、面白いことに、このような「意図的に間違った英語表現」をでっち上げようとすると、
結果的に、わりとよく使われる英語表現となることが多いのです。


試しに、自分で「間違っているけど意味が的確に通じる英語表現」を適当にでっちあげて、
それをgoogleしてみると、それがすぐに分かります。
多くの場合、大量のページがヒットする、想像以上によく使われている英語表現なことが分かります。


すなわち、「間違っているけど意味が的確に通じる英語表現をでっち上げながら話す」
というのは、決して奇策ではなく、ネイティブスピーカーも含めた、
多くの英語話者が使う、ごく基本的な戦略なのです。


また、人々は遙か昔からこれを行ってきたために、
「間違っているけど意味が的確に通じる英語表現」の中には、
むしろ、「よく使われるありふれた英語表現」になっているものも多いことに気がつきます。


それから、よく、
「このような表現は、ほんとうに正しい英語なのか?」
ということを心配するあまり、
本で習った正しい英語表現だけを使おうとする人がいますが、
それはバカバカしいことです。


正しい英語表現とは、「意味が的確に伝わる英語表現」のことであって、
意味が的確に伝わる限り、
この惑星上でそれを使うのが自分しかいない
ような表現であっても、
それは正しい英語表現なのです。


また、不慣れな人の場合、自分で創作した英語表現は、言いたいことと別の意味に取られる恐れがあります。
たしかに、これはもっともな心配です。ですから、不慣れな人の場合、絶対に失敗の許されない、重要な会議では、自分で新しい表現を創作するのは、避けた方が無難でしょう。
しかしながら、普段の会話でいつも新しい表現を創作しながら英語を話すようにしていると、どのような英語表現なら的確に相手に伝わるのか、だんだん勘がつかめてきます。そして、慣れるに従い、英語表現の創作をしながら話しても、相手に誤解されるリスクがどんどん減っていくのです。そもそも、英語表現を創作しながら会話するというのは、実際に多くの人によって行われている、とくに珍しくもない行為なのです。



もちろん、「間違っているけど意味が的確に通じる英語表現をでっち上げながら話す」
というのは、語彙の少ない人が新鮮な英語を話すときに効果的なテクニックの一つに過ぎません。
これ以外にもいくつかのテクニックがありますので、ここでは、それらも含めて解説してみました。


基本的には、どれもよく空気を読んで使うのが基本です。とくに(1)と(2)は、仲間内などのインフォーマルな場所で、それが受け入れられる空気の時だけ使うのが一般的です。また、いくら仲間内でも、過剰に乱発するとタダの痛い人になります。


また、ここで紹介するテクニックは以下のタイプの人には向きませんので、その点、ご了承ください。

・空気がまるで読めない。
・ユーモアのセンスが皆無。
・外したときに自己フォローする反射神経がなさすぎる。

テクニック1: 存在しない単語の組み合わせをでっち上げて使う


まずは、一番お手軽な方法から。


たとえば、「very beautiful」とか「very strong」というように、
何かを強調する時にいつもveryを使うのは、陳腐で退屈です。


そこで、その時々の空気を読んで、veryの代わりに使えそうな言葉の組み合わせをでっち上げてみます。


たとえば、criminallyを使って、

criminally delicious(犯罪的なまでに美味しい)
criminally beautiful(犯罪的なまでに美しい)
criminally gorgeous(犯罪的なまでに豪華だ)
criminally spacious(犯罪的なまでに広々としている)


具体的な使用例としては、たとえば、単に

Mr. Kogai's house is very spacious.
(小飼弾氏の家は、とても広々としている。)

と言うと、なんだか退屈な感じになってしまうし、自分が感じた印象を十分に表現できていないな、と感じるとき、

Mr. Kogai's house is criminally spacious.
(小飼弾氏の家は、犯罪的なまでに広々としている。)

という表現を使うことで、自分が感じた印象を、より的確に伝えることが出来たりします。


あるいは、stupidlyを使って、

stupidly expensive(バカバカしいほど高価だ)
stupidly cold(バカバカしいほど寒い)
stupidly small(バカバカしいほど小さい)

という言い方をしてみたりとか。


また、これ以外にも、本来ならそういう組み合わせはしない組み合わせで、
奇妙なおもしろさの発生する言葉の組み合わせは、いろいろでっち上げられます。
たとえば、challengedを使って、以下のような表現ができます。

バカ:cerebrally challenged(大脳が不自由)
チビ:vertically challenged(垂直方向に不自由)
ブス:aesthetically challenged(美的に不自由)
貧乏:financially challenged(経済的に不自由)


この調子で、自分が聞いたことがないような、オリジナルな組み合わせを、
どんどんでっち上げながら話すと会話が生き生きしてきます。
もちろん、でっち上げた表現をgoogleしてみれば分かるように、
たいていは、結果的にわりとよく使われる英語表現になります。


テクニック2:存在しない英単語をでっち上げて使う


これも、お手軽な方法です。


仲間内でよく使う固有名詞の動詞化、形容詞化、副詞化は、
誰にでも簡単にマスターできるテクニックです。


たとえば、

「ジョナサンが合気道を教えてくれるって話聞いたんだけど、ほんと?」
「ジョナサン流にアレンジした合気道(Jonathanized version of it)だけどねー。」

とか、あるいは、

「ついでに空手もジョナサン化(Jonathanize)すると、すごいものが出来上がるんじゃね?wwww」

とかです。


このとき、ジョナサンがかなりクセのある濃いキャラだと、
この表現に独特の味のあるニュアンスが生まれたりすることがあります。


あるいは、まだLISPにCLOS(CLOS = Common Lisp Object System)が導入されたばかりのころ、
LISPでシステム開発している同僚との会話で、

It's not CLOSified yet.(その機能はまだCLOS化されてないんだよ。)

という表現をしてみたり。




テクニック3:文脈的に間違った英語表現を使う


「この文脈では、通常その英単語やフレーズを使うのは想定外」となるような、
文脈的にミスマッチの英語表現を使うテクニックです。


たとえば、複数の欧米人と日本人で、日本人の過労死の話題になっていたとします。
そして、日本の過酷な労働環境に興味津々な欧米人たちのために、
日本人が一人ずつ、過労死について、統計上は何人死んでるとか、
こんなニュース記事が紹介されていたとか、
クドクドとつまらない一般論を語って、みんなを退屈させていたとします。


こういう空気の時に、「あなたはどう思う?」と話を振られたら、

I survived.(私は生き延びました。)

と、まるでベトナム戦争を生き延びたかのような表現をしてみます。


いくら日本の労働環境が過酷でも、戦場や飛行機の墜落現場ではないのですから、
surviveという単語を使うのはおかしいのですが、
わざと文脈とミスマッチな単語を使うことで、新鮮なニュアンスを作り出します。


テクニック4:簡単に短く言えることを、意図的に回りくどい表現を使う


たとえば、ひどくブサイクな女性がいて、
彼女がブスであるということを言わなければならない場合
単に

She is ugly.(uglyはブサイクという意味)

と言うのは、無粋だったり、失礼だったりします。


この場合、婉曲表現としてhomelyを使ったりしますが、
これはありきたりの婉曲表現であり、相手を退屈させてしまいます。


この場合、言外のニュアンスで、
「uglyというのは失礼だし、立場上、僕はそれを言えない。
しかし、not uglyというのはウソになる。
uglyと言わずに、uglyであることを伝えなければならない。」
という苦しい自分の立場が、言外に相手に伝わるような表現をすると、面白みのある表現になったりします。


たとえば、

I have to admit the fact that she is not aesthetically appealing.
(彼女が審美的にアピールするわけではないという事実を、私は認めないわけにはいかないでしょう。)

という言い方にします。


これを言うときに、声のトーンを低く抑え、真面目くさった表情をして、
本気で誠実に、公式見解を発表するように言うと、
独特の面白みが生まれたりします。


この面白みには、2つの要素があります。


一つは、まるで政治家の公式スピーチのように過剰に「政治的に正しい」
言い方であることによる面白みです。
多くの人は、政治家の過剰に「政治的に正しい」スピーチに嫌気がさしており、
それとそっくりな言い方をすることで、政治家をからかっているような面白みが生まれるわけです。


もう一つは、一種の自虐ネタとしての機能です。
立場上、政治的に正しい発言しか許されないストレスと苦々しさを味わった経験のある人の場合、
その同じ苦しみを他人が味わっているのをみて、共感を覚えます。
また、その苦しさを分かるが故に、他人の不幸は蜜の味的に、
他人がそれに苦しんでいる様子が嬉しくてしょうがないのです。


もちろん、これを、まだ信頼関係の出来ていない相手に対して、
ニヤニヤしながら言うと「嫌みな人間」になってしまうリスクがあるので、
注意が必要です。


これを使うとき重要なのは、真面目さと茶目っ気との混合比率です。
また、聞き手の頭の良さです。
このブレンド比率を間違えたり、言う相手を間違えたりすると、
単に過剰にくそまじめな人だと思われたり、
不謹慎で嫌みな人間だと思われたりします。


したがって、相手の人間性と知性をよく見極めた上で、
その場の空気を良く読んで、声のトーンや表情を繊細に制御しながら言う必要があります。


テクニック5:What do you think? と Whadayathink?を使い分ける


会話中に、相手の感想や意見を聞きたいと思ったとき、
「どう思う?(Whadayathink?)」
と話をふることがあります。


書面に書くと「What do you think?」であったものが、
何度も使っているうちに、自然にこなれてきて、
会話の中では「ワダヤシン」みたいな発音になるわけですね。
一つの英単語みたいな、くっついちゃった感じです。


しかし、単に「どう思う?」と話をふるのではなく、
「『おまえの』意見はどうなんだよ?」
と問い詰めたいときは、「ワダヤシン」という発音ではダメです。
こういう場合は、

What [区切る] do [区切る] you [区切る]think?

という風に、わざわざ単語を区切って発音した上で、「you」という単語をことさらに強調して言います。


こうすると、相手は「オレ自身の意見を求められているのだな。」ということを強く意識し、
「Whadayathink?」と聞いたときとは、ぜんぜん別の回答が返ってきたりします。


このように、書面上では全く同じ意味になってしまうフレーズを、
発音の仕方を変えて、別の意味で使い、かつ、全く別の回答を引き出すように使い分けると、
会話がより生き生きします。


テクニック6: 不意打ち的になれなれしい表現を使う


普段は丁寧な英語を使って、礼儀を失しないように心がけます。
しかし、相手が十分い自分の人格を信頼し、冗談が通じるモードになったら、
丁寧な受け答えの中に、いきなり、なれなれしい失礼な表現を混ぜます。


たとえば、1人があまりに、石頭でピント外れなことをダラダラとしゃべり続けてて、
しかも、みんなが「ズレてんな、こいつ」と思ってる空気を察知したら、
そして、冗談の通じる相手だったら、いきなり冗談めかした声音で、
「So what?」(だからどうしたっつーの。)
と、浜ちゃんばりに失礼なツッコミをかまして、ニコニコして、周囲の人の笑いを誘います。
そして、万一、相手が気分を害しそうだったら、
「ウソです!ごめんなさい!いや、このシリアスな空気の中で、
ためしにSo Whatって言ってみたらどうなるかなーという好奇心を抑えられなくっちゃって(笑)。
病気ですね。ごめんなさい。失礼しました。それはさておき、これってさ、、、、、」
などとすかさず自己フォローしてごまかします。


あるいは、たとえば、絶対アリエナイ変なことを言われたら、
ニコニコしながら、
「No way!」(ねーよwww)
と言ってみたりします。「ありえねーっつーの!」、ぐらいの意味ですかね。
もちろん、周囲の笑いを取ることを意識しながら、いいます。
また、相手が気分を害しそうになったら、すかさず自己フォローします。


テクニック7:論理的にtheをつけられないはずのものにtheをつける


通常の会話では、脈絡もなしに、いきなりthe penとかthe guyとか言い出すのは、
論理的に成立しないです。


論理的、という言い方が適切かどうかは分かりませんが、要するに、
the penやthe guyと言うときのtheというのは、文脈上既に特定されていることが明かな実体を指すものなので、
いきなり「そのペン(the pen)」と言ったって、どのpenなのか、意味不明、ということです。


そして、

MS Windows is the only Operating System for ordinary people on the planet.
(その惑星(the planet)上にいる普通の人にとっては、ウィンドウズが唯一の現実的なOSの選択肢なんだよ。)

とMS信者が言ったとすると、いきなりthe planet(その惑星)というのも、具体的にどの惑星かは、論理的には分からないはずです。
この宇宙に惑星はたくさんあるのだから、いきなりその惑星(the planet)と言い出したって、
どの惑星か分からないぜよ、というわけです。


たしかに、1000年後にこのセンテンスを使ったら、この文章は論理的におかしいかもしれません。
しかしながら、現時点では我々人類が居住している惑星は一つしかありませんので、
いきなりthe planetと言っても、意味が通じてしまうのです。


これだけでなく、一般に、aやtheを付けたり付けなかったりを、より繊細に使い分けると、
とてもいい感じの英語に聞こえます。


目次

■なぜここで紹介するテクニックが有効なのかの解説
■テクニック1:わざと存在しない単語の組み合わせをでっち上げて使う
■テクニック2:わざと存在しない英単語をでっち上げて使う
■テクニック3:わざと文脈的に間違った英語表現を使う
■テクニック4:簡単に短く言えることを、意図的に回りくどい表現を使う
■テクニック5:What do you think? と Whadayathink?を使い分ける
■テクニック6: 不意打ち的になれなれしい表現を使う
■テクニック7:論理的にtheをつけられないはずのものにtheをつける


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